メモ

「そもそも人間がそのために生きるに値する価値なんかありっこない。そんなことは、ちょっと考えればわかることである。
人類がこの地球上に存在しているということそれ自体が、そもそも価値のないことである。もしあるとすれば、誰が人類にそのような価値を与えたのか、どこからそれは降ってわいてきたのか。
もし人類にそのような価値があるとすれば、猫にもそれはあるのか。蛆虫にもそれはあるのか。もし人類にあって、猫や蛆虫にないとすれば、どこにその違いの根拠があるのか。
逆にもし、猫や蛆虫にもあるとすれば、人類、猫、蛆虫に共通な価値の根拠はどこにあるのか。それともまた、たとえば人類の価値の方が猫の価値より高いとうような、価値の高低があるのか。
もしあるとすれば、その根拠は何か。要するに、価値というものも、わたしに言わせれば、例によって例のごとくいつものことながら、人間の勝手な幻想に過ぎないのである。」
 「ある価値を信じているからこそ、人間は他人の生命、幸福はおろか、自分の生命、幸福さえ軽んじることになるのである。
特攻隊員たちは、大日本帝国の悠久の大義とやらのために、身を鴻毛の軽きに比して死んでいった。彼らを死に駆り立てた司令官たちだって、自分もその大義の価値を信じていたからこそ、そうできたのであって、そうでなければ、とても恐ろしくてそんなことはできなかったであろう。
アメリカ軍は、アメリカ的自由と民主主義とやらのために、敵国の非戦闘員にまで残虐の限りを尽した。ドイツ軍は、アーリア民族の純血とやらのために、六百万人のユダヤ人を殺した。こういうことはすべて、ある価値を信じている人にしてはじめてやれることである。」
 「ある価値体系ができあがれば、必然的にあるものは価値の劣ったもの、無価値なものにならざるを得ないから、どのような価値にせよ、ある価値を信じている者は必然的に誰かを軽蔑するようになる。
金の価値を信じている金持ちは貧乏人を軽蔑する。『進歩』の価値を信じているいわゆる文明人はいわゆる未開人を軽蔑する。
白人の血の価値を信じている白人は黒人やアジア人を軽蔑する。日本民族の血の価値を信じている日本人は朝鮮人を軽蔑する。男性的価値を信じている男は女を軽蔑する。
ある理想の価値を信じている人は、その理想をともにしない人を軽蔑する。いずれにせよ、価値というものを信じる人びとの態度が改まらないかぎりは、差別の問題は解決しないであろう。

価値と差別: サブカル雑食手帳

ちょっと長いけどメモメモ